ミツバチのアンモラル
貰ってしまったコバルトブルーのボトルに例のプリンセスの名前を仮で付けてみた。すると、圭くんは長い指で机の上に残るボトルたちを順に掠めながら、他の物語のヒロインの名前を挙げていく。
「ありがとう。プリンセスシリーズだね」
「ああ。それはいいね」
ボトルの美しさにほうっと感嘆すると、圭くんは立ち上がり私の頭を撫でようとして――けれど、その手は私に触れることなく撤退し、自分の首にあててしまった。
喉仏のあるそこを見上げると、圭くんも私を見下ろしていて。
……ずっと、いつも、圭くんは私が見上げなけらばいけない高さにしかいてくれない。しゃがんでくれた昔もあったけれど、椅子に私が立ち上がり同じ目線になったりもしたけれど、七年という歳の差を、私が望むかたちで埋められたことは一度もない。
「そろそろ行こうか」
「……うん」
「今日は智也居ないし、僕は店の片付けをしてくるよ」
「あっ、それ私がっ」
「華乃はそれ持って帰りなさい。外は暗いだろう。送っていくよ」
「隣なのに何言ってるの。大丈夫。ちゃと片付け手伝ってから帰るもん」
「――、駄目だよ」
「っ」
ひらりと長身の身体を一足先に滑らせ、圭くんは嗜めるように店に向かおうとした私の進路を塞いだ。
「ほら。じっとしてて」
そうして、動けなくさせる。
私の手の中にあるボトルに似合う赤いリボンを魔法のようにポケットから取り出し、それをボトルに器用に巻いていく。プリンセスの髪の色とよく似ている。
仕上がったのは、一層とプレゼントらしくなったハーバリウム。
「これ、汚しちゃうといけないから。ね」
魔法に掛けられたように、私は圭くんに促され、すぐ隣の自宅に送られてしまった。