ミツバチのアンモラル
保育園のお迎えも、遠足のおやつの買い出しも、砂遊びも勉強も逆上がりも、圭くんとの思い出が最も多い。
たくさんたくさん、撫でくりまわされては抱きしめられ、可愛がられた。
成長期と共に色素の薄かった髪は少し深みを増して、周囲に溶け込んだ。白い肌は水泳部に入って少々焼け、質の違いは変わらないながらも満足そうだった。
圭くんは、少しだけ昔の風合いから逃れてはいったけど、すくすくと育った高身長と、完成度の高い各々のパーツが絶妙に配置されたかんばせは崩れることなく成長していき、天使は王子様へと羽化していった。幼く見えると本人が気にしている二重の可愛い垂れ目も、全ての神様からの祝福でしかないと私は思う。
柔らかなやわらかな、お伽噺の王子様。
小学生のときに自覚した私の初恋は圭くんで、けれどまだ子どもの私には好きという気持ちだけでふわふわと夢心地。漠然と将来は圭くんのお嫁さんになるのだとか思っただけで、明確さは皆無だった。まあ、それはそれで健全な小学生の脳内なのだろうけれど、土台がそんなでは生々しくなるのなんて亀の歩みだ。
それは呪縛のようにずっと私を縛った。
今も少なからずそれを引きずっている。
智也は早々に自立してしまったけど、ずっと圭くんにべったりだった私と、妹とはなんて可愛いのだろうと溺愛止まない圭くんは、甘やかされ甘やかす関係を絶つことはなかった。
片時も、ではなかったけれど、一緒に過ごした時間は、そこらの兄妹より長いのだろう。
アルバムのページを捲り、圭くんと高校卒業間近の私が写る一枚があった。
二人の後ろには、黒のRV車。
圭くんがこつこつとお金を貯めて買った大切な車。
納車日に撮った写真だ。穏やかな圭くんも、この日はテンションが高く、なんだかピースサインで写っていて。
王子様のような圭くんは、私以外の人の目にも当然そう見えていて、正直モテた。
助手席に最初に乗るのは彼女だろうか……そう生々しくも思ったものだ。
そんなの嫌だなと思う私の独占欲が、これから先、圭くんが助手席に私以外の女の人を乗せなくなる呪いを、きっとかけてしまったのだ。