君は僕のもの
…樹side



「何か海ってひろ〜いねっ!」


二人で浜辺を歩いていると、急に愛梨は立ち止まって海の方に体を向けた。



でも、…海が広いのは当たり前。

…つか、そんな歌があった気がするような、




「アホ面、」

クスッと笑いながら俺は愛梨にそう言った。

そうすれば『えへへ』なんて言いながらも、同じように愛梨も笑いだす。




「…綺麗だね…っ、でもやっぱりもう少し早くに来ればよかったかな?」


少し俺のことを見てニコッと微笑むとゆっくり愛梨が目を閉じた。



…何で目瞑ってるわけ?

不思議に思いながら愛梨の顔を覗くように見る。




「何か幸せ…」


急に何を言い出すのかと思えば、愛梨はそんなことを口にして、
俺と繋いでいない左手をグーンと空に向けるように勢いよくあげた。




「来てくれて、…本当にありがとっ」

閉じていた目を開いていつもよりクシャッと笑って愛梨は俺の手を強く握った。


突然のことに俺も少しだけ戸惑って、…でもその握られた左手を力強く握り返す。





「愛梨」

ボソッと名前を呼ぶ、



「…なにっ?」


そうすれば笑顔の愛梨がこっちを向いて。




こんな些細なことだけで、今の俺は幸せな気持ちになれる。

…だから、『俺も幸せだよ』って。



心の中だけでそう言った。



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