君は僕のもの
近付いてくる樹に対して後ずさりをしながら、言う。
「…こんな思いを、あたしはしたかったわけじゃないよ」
そうだ、あたしはこんな思いをしたかったわけじゃないんだ。
…きっとどこかで、
違うことを、違うことを思っていたんだ。
『“好きになった事がある”じゃなくて、
樹は今も昔も、ずっと一人の女の子だけを“好きなまま”なんだよ?』
…っ、
心が痛む。痛むよ。
「もう…っ、やめる」
その瞬間、あたしは抜け殻のようにそう呟いた。
「…やめるって、何を?」
いつも冷静な樹が、どこか冷静さを失ったようにそう言う。
…こんなことを、言う日がくるとは思っていなかったけど。
「…樹の言うこと、聞くのをだよ、
もう、樹とは…、関わりたくない」
目を…、目を見れなかった。
あたしはそういい放つと、樹の真横を通り過ぎようとした。
真横に接した瞬間ガシッと樹に腕を掴まれる、見れば今まで見たことのないような表情の彼がそこにいた。
でも、あたしは…
彼の視線から逃げ、その腕も振り払ってしまって。
…終わり、
それしか頭に無かった。