君は僕のもの
「…ちょっと愛梨っ!!」
…っ、?
「へ…、ん?…っえ」
突然のお母さんからの声が頭上から聞こえてくる。
どうしたの、お母さん…、
「なに寝ぼけてるの!?学校、遅刻しちゃうでしょ!」
そう大きな声で言うと思いっきり掛け布団をあたしから引き剥がした。
「…うぎゃっ」
その拍子に、意味の分からない声が出る。
遅刻…?
だからこんなお母さん慌ててるんだ…
何だか冷静な自分。
「もー、まったく!
…それよりいっちゃんは、今日どうしたの?まだ来てないわよ?」
あたしの部屋のカーテンを明けながらそう言うお母さんに『今日は来れない』と目を擦りながら言う。
“今日”
そう言った後に小さく溜め息が零れる。
階段を降りながらも考えることは一つ、たった一つのことだけ。
…あ、あたし寝坊したんだ。
いつもならもう少し早い時間に、ちゃんと自分で起きられたのにな。
なんて、…呑気なことを考えていた。
…何だかんだ、
樹が離れて困るのはあたしの方じゃない。
寝癖のついた髪をワシャワシャと触りながらあたしは階段を降り終えて、
ふと目に止まった玄関を見れば、
そこには、いつも不機嫌な表情をして壁に寄り掛かっていた彼はもう居なかった。
少しの心の痛み。