キミの音を聴きたくて
「……なんですか?」
わざわざ他の人がいるときに呼び止めたということは。
本当に大切な用事があるのだろう。
今まで友達と一緒にいるときに話しかけてきたことなんて滅多になかったのに。
というか、私と知り合ったことは誰にも教えていないと思っていた。
心のどこかでそう安心しきっていた。
「お前、歌えるのか」
氷のように冷たい目。
そんな視線を向けられたことは今までにない。
一体何があったの?
何が悪いって言うの?
「……はい」
静かに答えると、天音先輩はどんどん近づいてくる。
え、何?
考えが回らないうちに、今おかれている状況を悟った。
これは、俗にいう壁ドン。
けれど甘い雰囲気なんかではなく、むしろ重い空気が流れている。