キミの音を聴きたくて
◇◆◇
「学校で呼び出すなんて珍しいな、陽葵」
白い息を吐きながら屋上までやって来たのは、天音先輩。
というか、私のことを「陽葵」と呼び捨てにする人なんて家族以外には彼しかいない。
「どうかしたか?」
不思議そうに顔を覗き込む天音先輩に、また胸が高鳴る。
いきなり顔が近くにきたら、耐性のない私は緊張してしまうに決まっている。
あの日からかなり時間が経っているから、先輩は忘れているだろう。
『ピアニストになりたかった』
彼はあのとき、確かにそう言い切った。
その気持ちは今でも変わっていないはずだ。
その夢を諦めるなんて、お姉ちゃんが許すはずない。