キミの音を聴きたくて


「……会長はいいですよね。
手の届かないものなんてなさそうで」



「え?」



思わずこぼれてしまったその言葉に、自分を責めたくなる。



ほら、まただ。関係ない人まで巻き込もうとしている。




「……なんでもないです」



私がそう言うと、彼は「そう?」と言いながら向き直ってくれた。



きっと不自然だった。それでも何も聞かずに流してくれた彼は、やっぱり優しいのかもしれない。




「当日は緊張すると思うけど頑張ってね。
じゃあ、俺はこれで」



「はい、ありがとうございました」



ペコリとおじぎをすると、彼はニコッと笑ってくれた。




素敵な笑顔だな。



このときは単純にそう思っていただけだったのに─────。

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