キミの音を聴きたくて
ねぇ、お願いだから。
今だけでいいから、力を貸して。
お姉ちゃん─────。
────『陽葵なら、きっと大丈夫だよ』
そんな声が。
もう聞こえるはずのない声が。
聞こえた気がした。
そんなの私の幻聴に決まっているけれど。
確かにその手で私の背中を押してくれた。
「……ごめん、みんな。
もう1度最初からお願いしてもいい?」
人生にやり直しが効くのなら。
私はこの瞬間に全力を注ぎたい。
この曲は、私が伝えたかったことだもの。
他の人が歌う曲だけれど、私の思いを詰め込んだ歌詞だもの。
みんなが私の言葉に頷いて、再び前奏が始まる。
客席は相変わらず混乱した様子。
それでも、構わない。
だって私は……歌うことが、好きだったんだから。