偽りの婚約者に溺愛されています
「天秤だなんて。誤解です」
否定すると、その目つきはさらに鋭くなった。
「誤解?修吾さんとお見合いしておきながら、智也さんとキスをしていたのに?彼は私の婚約者なの。誘惑しないで」
カタカタと全身を震わせながら、必死で訴える彼女を見て、私はなにも言えなかった。
私もそんな風に言ってみたい。あと少しの勇気と、女性としての美しさがあれば、私にもできたのだろうか。
「桃華。あちらで話そう」
智也さんは私からすっと離れると、今度は彼女の肩を抱いて歩きだした。
そんなふたりの後ろ姿を見ながら私は、どうしようもない罪悪感に見舞われていた。
彼女に言われた言葉のひとつひとつが、心に刺さって動けないでいる。
さっきあなたは、なにを言おうとしていたの。以前に私に対して、『好きな人ができるまで、恋人のふりをする』と言ったことを守りたいだけなのかもしれない。きっと、金額に見合った仕事をしようとしているだけだ。
だけどもう私は、ふりだけでは満足できないでいる。
今のうちにこのまま身を引かないと、もっと多くを彼に求めてしまう。
どうせ叶わない恋ならば、忘れてしまいたい。引き返せるうちに、できるだけ早く。
あなたの優しさを記憶の彼方に押しやり、二度と好きだなんて思わないように。
否定すると、その目つきはさらに鋭くなった。
「誤解?修吾さんとお見合いしておきながら、智也さんとキスをしていたのに?彼は私の婚約者なの。誘惑しないで」
カタカタと全身を震わせながら、必死で訴える彼女を見て、私はなにも言えなかった。
私もそんな風に言ってみたい。あと少しの勇気と、女性としての美しさがあれば、私にもできたのだろうか。
「桃華。あちらで話そう」
智也さんは私からすっと離れると、今度は彼女の肩を抱いて歩きだした。
そんなふたりの後ろ姿を見ながら私は、どうしようもない罪悪感に見舞われていた。
彼女に言われた言葉のひとつひとつが、心に刺さって動けないでいる。
さっきあなたは、なにを言おうとしていたの。以前に私に対して、『好きな人ができるまで、恋人のふりをする』と言ったことを守りたいだけなのかもしれない。きっと、金額に見合った仕事をしようとしているだけだ。
だけどもう私は、ふりだけでは満足できないでいる。
今のうちにこのまま身を引かないと、もっと多くを彼に求めてしまう。
どうせ叶わない恋ならば、忘れてしまいたい。引き返せるうちに、できるだけ早く。
あなたの優しさを記憶の彼方に押しやり、二度と好きだなんて思わないように。