偽りの婚約者に溺愛されています
部屋に戻ると、懐石の膳が用意されていた。
あんなに楽しみにしていたのに、食欲が消え失せている。
「お。美味そうだ。座って食べよう」
修吾さんは私を座らせると、自分の席に戻り美味しそうに食べ始めた。
それをぼんやりと眺める。
「落ち着いた?驚いたよ。急に泣きだすんだから。……ねえ、夢子さん。このお見合いだけど、前向きに考えてみないか」
驚いて我に返った。
「な……?え?前向きに?」
「うん。君と過ごして、もっと君を知りたいなと思ったからさ。兄さんが君を気にかけていたのが、なんだかわかったよ」
私は髪に挿さったかんざしをすっと抜いて、髪をくしゃくしゃと乱した。
「夢子さん?」
「私は普段、会社では女扱いされない男オンナです。髪もこんなだし、スカートも一枚も持ってないの。女の子に告白されてしまうほどに、男勝りなんです」
唖然と私を見る彼に、さらに言う。