偽りの婚約者に溺愛されています
「お前の気持ちもわかるが、年齢もあるしな。一般的には、二十六歳ならばまだ早いと思われるかも知れないが、お前と結婚する後継者には、早々に経営学を学んでもらう必要がある」
「そうだけど」
ダメだ。もっともすぎて、言い返せない。
このままお見合いしなければならないのか。
「実は、『グローバルスノー』の社長の息子さんとの縁談話がきてな」
「え?グローバルスノー?」
私が学生時代にバスケ用品を買うときは、いつもグローバルスノーブランドだったので馴染みがある。有名なスポーツ用品メーカーだ。
「彼は次男だ。だからうちを継いでも問題ない。もう自社で経営学を勉強し始めているそうだ。年齢もお前と同じだし、付き合いやすいと思うぞ」
父の用意周到ぶりに絶句する。そんな男性を、もう見つけただなんて。
「会ってみなさい。彼ならば問題ない。家柄も学歴も、条件も申し分なしだ」
どうしたらいいのか、必死で考える。
もうあとがない。このまま父の言う通りにお見合いするのが、正しいのだと思えてならない。
ふと、松雪さんの顔が思い浮かぶ。
完全なる片思いで、実るはずもない恋だ。
だけど今はまだ、このまま彼を想っていたい。
そんな欲求にかられる。