偽りの婚約者に溺愛されています
「そんな。そんなわけ……」
修吾さんは急に勢いを失くし、オロオロと目線を泳がせる。
「グローバルスノーの後継はお前だ。桃華と結婚して後を継げ。俺は、他の道を行くから」
前に彼が言った言葉が思い出される。
『長男だからというだけで、後を継ぐなんて納得できない』
……そういうことだったのか。桃華さんと修吾さんがうまくいくように、自分が後継者から外れて修吾さんに譲るつもりだったんだ。
智也さんらしいと、妙に納得した。
「あとはふたりで話し合うといい。……というわけで、夢子はもう必要ないな。もらっていくぞ」
急に、ずかずかと私のほうに歩いてくる彼を見た瞬間、私の身体はふわりと宙に浮いた。
「ぎゃっ!なに?!うおー!」
「うるさい。もう少し色気のある驚き方をしろ」
ブツブツ言いながら、彼は私をひょいと肩にかけるように持ち上げる。
「なっ!なんなの!こわいっ!」
「着物じゃ動きにくいだろう。急ぐから、少しの間我慢しろ」