偽りの婚約者に溺愛されています
そんなことを考えながらベッドに戻り、ぼんやりと座っていると、だんだんと眠くなってきた。
そのままドサッと仰向けに横たわる。帯の結び目が背中にザクッと刺さる。

「いてっ。もう……なんなのよ」
身体を横に向けて、目を閉じた。
今の自分の格好も、ここにいる意味も、すべてが何のためなのか分からない。

そういえば、今朝は着付けのために五時起きだったんだ。こんなにふかふかのベッドの上は、今の私に寝なさいと言っているようなものだ。

__私の記憶は、ここまでで途切れた。

はっ!!
目がパチッと開いて、ガバッと跳ね起きる。

「んごっ!?」

動揺からか変な声が出た。

「うっ!」

お腹が苦しい。なんだ?あ、帯か。

「……『んごっ』じゃねぇよ。寝起きから騒々しいやつだな」

声のしたほうを慌てて見ると、智也さんがコーヒーを片手に持ったまま、呆れた顔をして私を見ていた。

「あっ?あれ、私?」

「疲れていたみたいだな。まあ、そんな格好じゃ無理もないよな」

ようやく頭が働いてきた。
私は待たされたまま、ここで眠っていたのだ。

「何時!?」

「ああ。二時だよ。もう少し休んでいてもよかったのに」

彼はカップをテーブルに置くと、私のほうへと歩いてきた。






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