偽りの婚約者に溺愛されています
そのままドサッと、私のいるベッドに腰掛けその長い脚を組むと、私に向かって手を伸ばしてきた。
「ほんとに、勘弁してくれよな。お母さんから、君が着物を着て、料亭に向かったと聞いたときは驚いたよ。すぐに見合いだとわかった。会場に着けば、見合い相手は俺の弟だし。夢子には本当に、振り回される」
頬を優しく撫でるその手は、もうじき私のものではなくなる。元々、私のものではないけれど。
「お母さんは、会社の接待だなんて言ってたよ。よく隠し通せたな。どう見ても見合いだろ」
息を飲むほどの魅惑的な笑顔。
会社とは違う甘い声。
ずっとこんなあなたを見ていたい。切なくて、心がパリンと音を立てて割れそうな感覚になる。
「隠していたわけじゃないです。母が勝手にそう思ったみたいだから、否定しなかっただけで。でも、本当は気づいていたのかも」
「君のこの姿を見られた相手が、修吾でよかった。あいつになら、無理にでも君を諦めるように言える。綺麗で飾っておきたいくらいだから、見合い相手に惚れられてしまうからな」
「修吾さんであっても、誰であっても、私を綺麗だなんて思いませんよ」
あなたの言葉はいつも大げさで、私に過度の期待をさせる。
『追加料金は取らないよ』。
そう言っていた彼だが、サービスにしては少しやりすぎだと思う。いつか彼が話していた俳優業に、本当に向いているかもしれない。