偽りの婚約者に溺愛されています
そんな私を見ながら智也さんは、クスクスと笑う。
「それとも、君の涙の理由は別のものかな?夢子が泣きたくなる理由を、俺が勘違いしてないといいが。俺はどうしても、自分に都合よく考えてしまうところがあるからな」
「意味がぁ……わかりま、しぇん」
嗚咽を堪えているせいか、おかしな話し方になってしまうが、これが精一杯だ。
「ぶくくっ。そうか」
彼は可笑しそうに笑ったあと、黙り込んだ。
俯いて、なにかを考えている。
「智也……さん?」
最後の言葉を探しているのかもしれない。
私の気持ちに気づいているのならば、私を傷つけないようにしたいのだろう。
静寂が漂い、居心地が悪い。判決を言い渡される被告人にでもなったような気分だ。
だけど、ここで逃げ出すわけにもいかず、私も黙って彼が話すのを待った。
私の都合で始まったことだから、最後は彼に合わせたい。なにを言われても、黙って受け入れなければならない。
そんなことを考えていると、突然彼が顔を上げた。
まるで覚悟ができたような、真剣な顔をしている。
「なんて言えば君が納得するのか、考えてもわからない。だけど、仕方がないから、そのまま言うよ」
私は身構えた。
すると、軽く深呼吸をしてから彼が一気に言った。
「この金額で……君に俺の婚約者になってもらいたい。期間は……無期限だ」
「はへっ?」
「袋の中をちゃんと見てくれ。お金を確認してもらわないとな」
智也さんは紙袋を手にすると、私の目の前にずいっと差し出した。
それを恐る恐る受け取り、言われるがままに中を開く。そのままひっくり返して中身を全部出した。
バサバサッとお金の束が出てくる。束はぜんぶで四つ。渡したときのままだ。
「……あれ。これはなに」
その中に紛れ込んでいる小さな箱を見つけて、そっと手にした。