偽りの婚約者に溺愛されています
「バスケットボールだけじゃな。効果が足りない気がして。今度は俺が依頼者なんだから、返すなよ?必要アイテムだ」
箱を目の前まで持ち上げ、より目になりながら見つめる。
「開けろよ。眺めていても中身は出てこないよ。どれだけ見つめても、箱に穴は開かないからな」
まさか。そんなはずはない。
これは何かの間違い?騙してあとで『嘘だよー』なんて言う、どっきりパターンなんじゃないの。
私の予測が正しければ、この大きさは。この箱の中身は。
震える指で箱をそっと開くと、中からさらに、コロッと赤い入れ物が出てきた。カパッと入れ物の真ん中を開くと、私の目に飛び込んできたのは、私が思った通り、指輪だった。
それは、キラキラと輝く石が中央についたものだ。
あの日の夜景と同じまばゆい光。
私は瞳を大きく開き、それを見つめた。
言葉がうまく出てこない。どういう反応をしたらよいかもわからない。
「誰にでもこんなことをすると思うなよ。君がどう思おうと、俺が女性に指輪を贈るのは初めてのことだ。もちろんこれは、れっきとした婚約指輪だ」
前に私が、智也さんとたくさんの女性が噂になった話をしたからだろうか。
彼は、若干不安げな顔で私を見ている。
「どうしてこれを私に?桃華さんと、結婚しないためですか。このまま芝居を続けないと、修吾さんと桃華さんが結婚できないから?」
「どうして君は……」
なにかを言おうとした彼の言葉を遮る。
「もし、智也さんが桃華さんを本気で好きなら、こんなことをするべきではありません。身を引いても、後悔するだけだわ。気持ちに正直になるべきです」