偽りの婚約者に溺愛されています
私の手から、指輪の箱をすっと抜き取ると、彼は私の左手の薬指にそれをはめた。
「この四百万で、改めて俺の婚約者になってくれ。この指輪をその証として受け取ってほしい」
今、私はどんな顔で彼を見つめているのだろう。
彼からの告白は偽りのものだけど、これまでの私ならば、こんなに素敵な男性から言われるはずのないことだ。
いっそ、二度とないことならば楽しんでしまえばいいのかもしれない。
だけど……。
「私は……お洒落もしたことがないし、智也さんの相手としてはふさわしくはないと思います。桃華さんの代わりに婚約するなんて、智也さんの親族に認められはしないと思います。誰かほかの人を探したほうが……」
どうしても自信がない。
会社でも、私たちが交際宣言をしても、誰一人お似合いだとは言わなかった。
「ほかの人になんて頼めない。社長にも認められているのに嘘だと知れたら、途端に君に見合い話がくるぞ。ついでに俺も、クビになるだろうな」
「そんな!」
私が驚いた声を出すと、彼はニヤッと笑う。
「ふさわしいか、ふさわしくないか。それは君が決めることじゃない。言ったはずだ。君は断ることなんてできない。依頼者は俺だからね」