偽りの婚約者に溺愛されています
理由が分かりました
「さっきついでに服も買ってきたから、着替えるといい。その腹が持つうちに、なにか食べないと」
そう言って彼は、有名なブティックの紙袋を私に差し出した。
「えっ。着替え?」
「その格好じゃデートもできない。着替えに必要かと思って、部屋を取ったんだ。出かけている間、ここに着物も置いていけるだろ?」
「でも……」
遠慮して包みを受け取らずにいると、彼が私の手を掴み無理やり手渡す。
「まさか、違う目的で連れ込まれたと思ったか?期待させて悪いが、俺は処女相手にそこまで鬼畜じゃない」
「なっ!失礼ですよ!期待なんてしませんよ!着替えますよ。ありがとうございます!」
私は袋から、服を取り出した。
今のひとことで、遠慮も緊張も吹き飛んだ。
まさか、わざとそういう言い方をしたのではないかとすぐに気づく。だけど聞き返したりはしなかった。
服を広げると、いつも着ているような、シンプルで真っ白なシャツとジーンズだった。フリルや飾りなどは、まったく付いてはいない。
ヒラヒラしたものかと思っていたのに、意外に思う。男性は婚約者には、当然女性らしさを求めるだろうから。
私が服を見て固まっていると、彼が言う。
「どうした?気に入らなかったか?似合いそうだと思ったんだけど。夢子はスタイルがいいから、そういう格好がよく合う」
「いえ、あの……。このデザインはとても好きです。だけど智也さんは、私が男みたいに見えてもいいんですか?」
思わず聞いていた。