偽りの婚約者に溺愛されています
「男の人から好かれた記憶はないけど、女の子は可愛いですよ。付き合ったことはないけど、学生の頃に本気で考えたことはあります。気持ちに応えてみようかな、なんて。無理でしたけど」
笑い話のつもりで何気なく言ったのに、彼は私を見たまま固まった。
「おい。本気で言ってるのか。ますます油断できないな。君の首に縄をつけるのは趣味じゃないんだが」
そのあとふたりで笑い合った。
彼の、そんなところがたまらなく好きだ。
男性を意識させないような普段通りの話し方で、私を女性として扱う。
「よし。やはりスタイリストの見立てがいいから、似合ってるな」
サニタリーで着替えを済ませた私を見て、彼が微笑む。
「いえ。モデルがいいんですよ。しかも、すごく身体に合って着心地がいいです。高かったんじゃ……。やっぱり私__」
私が言うと、彼は軽く私を睨んだ。
「俺をなめてんのか。君たちよりも高給だと思うよ」
「すっ、すみません」
これ以上言うと、彼が気分を害すると思い引き下がる。ありがたく受け取ることにした。