偽りの婚約者に溺愛されています

「男の人から好かれた記憶はないけど、女の子は可愛いですよ。付き合ったことはないけど、学生の頃に本気で考えたことはあります。気持ちに応えてみようかな、なんて。無理でしたけど」

笑い話のつもりで何気なく言ったのに、彼は私を見たまま固まった。

「おい。本気で言ってるのか。ますます油断できないな。君の首に縄をつけるのは趣味じゃないんだが」

そのあとふたりで笑い合った。
彼の、そんなところがたまらなく好きだ。
男性を意識させないような普段通りの話し方で、私を女性として扱う。

「よし。やはりスタイリストの見立てがいいから、似合ってるな」

サニタリーで着替えを済ませた私を見て、彼が微笑む。

「いえ。モデルがいいんですよ。しかも、すごく身体に合って着心地がいいです。高かったんじゃ……。やっぱり私__」

私が言うと、彼は軽く私を睨んだ。

「俺をなめてんのか。君たちよりも高給だと思うよ」

「すっ、すみません」

これ以上言うと、彼が気分を害すると思い引き下がる。ありがたく受け取ることにした。




< 127 / 208 >

この作品をシェア

pagetop