偽りの婚約者に溺愛されています
ホテルのロビーに向かって歩き出す。
しっかりと手を繋いだ私たちは、長身カップルだと思われているのか、多少の注目を集めているようだ。周囲を見回しながら、コソコソと彼に言う。
「やっぱり目立ってる。だから言ったのに。踵の高い靴は履かないって」
彼はニコニコしながら私を見た。
「夢子が綺麗だから、みんな俺が羨ましいんじゃないかな」
「もう。からかわないで」
陽気に笑う彼を見ていると、彼の言う通り、どうでもいいと思えてくるから不思議だ。
「智也さん……!」
そのとき、私たちの行く手に、先ほど料亭で会った桃華さんが立っていた。
「あれ。桃華。修吾と一緒じゃないのか」
正式な婚約者の前でも、彼は私の手を放さなかった。
「修吾さんなら、料亭で少し話してから別れたわ。私はここに用があって。今度ここで、ピアノリサイタルをするから打ち合わせに」
「へえ。すごいじゃないか。そういや君は、ピアニストだったな。チケットがまだあるなら、俺も行きたいよ」