偽りの婚約者に溺愛されています
「だが、相手次第では交際は認められないかもしれないぞ。もしも彼が、いい加減な考えしか持たないような男なら、見合いのほうを進める」
「わ、わかったわ」
とりあえずは保留になったことにほっとする。だが、どうしたらいいのかわからない。
正直に打ち明け謝れば、今ならまだ、父は許してくれるだろう。
だけどそれも、勇気がない。
お見合い相手と一度会ってしまったなら、おそらく断ることなどできないだろう。
大体私には、断る理由もないし、おそらく政略的な兼ね合いもあるだろう。
相手の男性は、私が女性に好かれるような、男まさりの女だと知っているのだろうか。社内の男性と同じように、男オンナだと思うだろうか。私を見て、がっかりしたりはしないのだろうか。たとえどう思おうが、そんな私と結婚しなくてはならないなんて、気の毒な気もする。
そんなことまで考えた。
「いろいろ混乱するだろうが、よく考えて決めなさい。父さんは、お前を不幸にしたいわけじゃないんだ。お前の恋人が後継者にふさわしければ、もちろん賛成するさ。そうなれば、見合いは白紙に戻すよ」
「うん。ありがとう」
父の気持ちはわかる。
私が周囲にどう思われているかを知った上での親心だということも。まさか、恋人がいるとは思ってなかったのだろう。実際は本当にいないけれど。
だけどどうしても、それに応じきれない私がいる。
松雪さんを好きでなければ、きっと何の問題もなかったのかもしれない。おそらく、逆にお見合いすることを喜んだだろう。
だけどもうすでに、彼に出会ってしまったから。
私は立ち上がると、ふらふらとリビングを出た。
どうしたらよいかの策もない。
ため息をつきながら、自分の部屋に向かって重い足取りで歩きながら、深いため息をついた。