偽りの婚約者に溺愛されています

ストレートに、飾りのない言葉で私を褒める彼が、智也さんとかぶる。
一瞬、泣きたい心境になるが、それを吹き飛ばすかのように、思い切り笑顔をつくる。

「そんなに期待しないで。もしも嫌なら、修吾さんからお見合いを断ってください。私は慣れてるから。元々、女性にしかモテたことはないの」

「バカ言っちゃいけない。断らないよ。女性に負けるなんてプライドが許さないね。俺が君を女らしくできたなら、男冥利に尽きる。君は興味深いよ」

そう言って彼は、テーブルの上にある私の手をそっと握った。

「よろしくね、夢子さん。俺を選んでくれて、本当に嬉しいよ。兄さんには負けないから。期待していて」

彼の行為にドキッとしたが、余裕のあるふりをする。

「はい。よろしくお願いします」

彼がこの選択をしたのは、ササ印の経営権のためかもしれない。
思ってもないことを言っているだけかも。

そんなことを考えるのは、どこか卑屈になっている、私自身の問題だ。

だけど理由がどうであれ、修吾さんにがっかりされないよう、智也さんが心置き無く桃華さんとうまくやれるよう、私は頑張る。

それが自分のためでもあるから。





< 139 / 208 >

この作品をシェア

pagetop