偽りの婚約者に溺愛されています
徹底的に邪魔します
彼女が発案した、速乾性サインペンのサンプルが上がってきた。
「笹岡。サンプルがきたぞ。いよいよ商品化だな。これが検査を突破したら、来週には工場で作成されることになる。最後の確認だから、試して気になるところがあれば言ってくれ」
彼女のデスクに小さな箱を置いて話す。
「はい。ありがとうございます!いやぁ、感動ですね。本当に本当なんだ」
箱を開けながら嬉しそうに笑う彼女を見て、俺も顔が緩んでくる。
「感動だけして、肝心なところを見落とすなよ。あくまで、君を喜ばせるためじゃなくて、これは確認だからな」
「分かってますよぅ」
週明け。
お見合い騒動などまるでなかったかのように、いつもと変わらない日常があった。
今日はまだ、ふたりきりで話すらしてはいない。
ホテルの部屋から出た彼女が、あれからなにを考えてどう過ごしたか、俺は詮索したりはしなかった。
ベッドの上に置かれたままの四百万円を、あれからしばらく呆然と見つめながら過ごした。
修吾との見合いを継続すると言い切った夢子は、俺の告白を聞いて、どう思ったのか。
普段と変わらない、今日の彼女の態度からはさっぱり読めなかった。