偽りの婚約者に溺愛されています
だが、彼女の指にあるはずの指輪が外れている。
それが俺の告白に対する、答えなのかもしれない。
箱の中からペンを取り出し眺める彼女に、なにも聞けないまま、俺は席に向かった。
「ラブラブですねっ」
彼女の隣の席の子が小声で言ったのが、背中越しに聞こえた。
「いや、違うよ?……と、いうか初めからなんでもないから。松雪課長の冗談だから」
「えー。別れたんですか?」
「別れたと言うか。付き合ってなんかないよ。冗談を言う期間が終わっただけ」
「どういうこと?付き合ってないって、マジですか」
夢子の言葉が胸に刺さる。
彼女たちは、俺に聞こえているとは思ってはいないみたいだ。
ため息をつきながら席に着く。
やはり、受け入れてはもらえなかったか。
告白なんてするはずではなかった。
思い余って勢いづいてしまったことを後悔しても、もう遅い。
彼女が自分の魅力に気づかないうちに気持ちを打ち明けても、こうして避けられるかもしれないことは分かっていたのに。
このまま修吾と結婚するつもりなのだろうか。
俺しか知らない夢子の魅力に、修吾が気づいているとでも?
そこで考えるのをやめた。