偽りの婚約者に溺愛されています
「もしかして笹岡を見てたんですか?松雪さん、本当に本気で彼女が好きなんですね」
判をついて書類を返す。
「別に見てない。いらぬ詮索はするな」
彼を見ると、ニヤニヤした顔でさらに言い出す。
「まあ、気になるのも無理はないかも。彼女は女にモテるからやっかまれているだけで、本当は隠れファンも多いですからね。松雪さんと付き合ってるという噂を聞いたとき、悔しがってるヤツもちらほらいたんですよ」
突然の彼の話に、俺は驚いてなにも言えない。
彼を見たまま動きを止めていた。
「彼女は性格もさっぱりしているし、話しやすい。さりげなく美人だから、化粧をしたらかなりレベルも高いと思いますよ。さすがですね。松雪さんが真っ先にそれに気づいたんですから。まあ、皆分かっていましたけどね。松雪さんが付き合わなかったら、話題にならなかったかも知れませんが」
書類を確認してから、彼は去っていく。
その後ろ姿を見ながら、気持ちがさらに焦り始める。
このままだと、修吾じゃなくても、いつか誰かが彼女を連れ去っていく。
黙ってこうして見ているだけでいいのか。
もう一度、お金を返してリセットしてから、彼女に伝えなければならない。
ふりなんかじゃなかった。いつだって本気だったと。