偽りの婚約者に溺愛されています
夜景の見えるレストランで食事をしたときは、嬉しそうに笑っていたのに、今の夢子は困った顔をして俺を見ている。
「あ。それ……。着けてくれてるのか」
そんな彼女の首に、あの日贈ったネックレスがかかっていることに気づいた。
俺の言葉と視線から、ネックレスを見ていると気づいた彼女は、曖昧に笑う。
「これは、これからも大切に使わせていただこうと思ってます。これは仕事を頑張ったご褒美ですし、とても嬉しかったんです。だけど指輪は、明日にでもお返しします。あ、これも返したほうがいいですか?智也さんが嫌なら……」
言いながら、彼女は両手を自分の首のうしろに回した。
「いや。そんな意味で言ったんじゃない。嬉しかったから。……指輪もできたらはめていてもらいたいんだが」
俺が言うと彼女は、ネックレスを外そうと首に回した手を元の位置に戻した。それは外されることなく、首元で輝いている。
「せっかく忘れようとして、今日一日普通にしていたのに、どうしてそんなことを言うんですか」
「忘れなくてもいい。君と終わる気なんてないから」
君の魅力に気づいているヤツがいる。
どうしても、このままでいたい。
「そんなにお金を返したいのならば、もう受け取りますから。もうそんなことを言うのは、やめて下さい。実は修吾さんとお付き合いすることになったんです。これからは彼のことを真剣に考えていこうと思ってるんで、私のことは本当に気にしないで」