偽りの婚約者に溺愛されています
「君は俺の話したことを忘れたのか?……好きだと言ったはずだが」
いずれは修吾と夢子が付き合うことになるかもしれないと思ってはいたが、突然すぎて驚く。いつの間にそんな話をしたのだろう。
しかもあいつは、桃華を好きなはずなのに。夢子と付き合おうと、どうして思ったのだろうか。
「私も信じないと言いました。智也さんは勝手です。あなたは余裕があって慣れているかもしれませんが、私は簡単には割り切れないんです」
「俺にだって余裕なんてないよ。どうやったら君をつなぎ止められるか、必死なんだ。今だってかなり焦ってる。君を無理やり、こんなところに連れて来るくらいにはね」
素直だけど頑固なところも。君がコンプレックスに思っているボーイッシュな外見も。抜群のスタイルも。
流れ落ちそうな涙をこらえる、その表情も。
今となっては、すべてが愛しくて仕方がない。
「嘘ばっかり。あなたみたいな人が私になんて、そんな気持ちにはなりません。他の人を選ぶことも簡単にできるはずなのに」
幼い頃から、周囲にそう言われ続け、自分でもそうだと思い込み、そうあるべきだと振舞ってきた。
夢子が俺を信じられない気持ちも分かる。
だが、そんな君だからこそ愛しく思え、女性として愛されることを教えたい。
お見合いの日とは別人の、すっぴんで透き通るような肌に手を伸ばす。
頬にそっと触れると、子供のようなみずみずしさだ。
「君を見ているとこうして触れたくなる。他の女なんて、もう選べない。俺の選択肢なんて、もうないんだよ」