偽りの婚約者に溺愛されています
「今日は修吾と約束でもしてるのか?」
「いえ。別に……」
彼女の答えににっこりと笑う。
「じゃあ、誘っても問題はないな。俺にこのまま付き合ってもらうよ」
「え。でも」
戸惑いをみせる夢子を見て、クスッと笑う。
「上司と食事するくらいじゃ、あいつは怒らないよ」
「上司……。わかりました」
俺が逆の立場なら、すぐに追いかけて阻止するけど。本当はそう思っているが、それは言わないでおく。
扉を開けて社内に戻る。
そのまま並んで歩いていると、あちこちから注目を浴びているように思える。
噂好きな社内の連中に、俺の弟と夢子を取り合っているだなんて知れたらどうなってしまうだろう。
そんなことを考えながら、エレベーターに乗り、そのまま外に出た。
「君のお金はさ、このまま預かっておくよ。このまま君と結婚したなら、どうせ君に返るんだから。同じ家に住むことになるんだしね。そのときまで俺が持ってる」
「結婚?そんな、まさか!」
静かに俺のあとを付いてきていた夢子が、大きな声で驚く。