偽りの婚約者に溺愛されています
「新商品のコンセプトはまとまったのか?早く進めていかないと、明日の社内プレゼンまでに間に合わないぞ」
「すみません。ぼんやりしてしまって。すぐにやります」
私は椅子に座り、焦って資料をめくる。
今はとりあえず目の前のことに集中しなければならない。
仕事中は、余計なことを考えないようにしないと。
「笹岡。……なにがあった?様子がおかしいぞ」
松雪さんの言葉に私の手が止まる。
「あ、あの。すみません。つい考え事をしてしまって。もう大丈夫です。集中します」
再び資料に手をかけた私に、彼はさらに言う。
「ちょっと話さないか。なにかあったんだろう。俺でよかったら聞くよ」
「え?いえ、別に__」
振り返り、彼を見上げた。
「話してみろよ、な?まあ、実は俺もコーヒーでも飲もうかと思っていたところだ。部下の人生相談となれば堂々とサボれる。仕事にも影響するからな。いいから来いよ」
私の返事も聞かずに、彼は歩きだす。