偽りの婚約者に溺愛されています
勝負します
「どこに行くんですか?」
彼に手を引かれながら尋ねる。
修吾さんと張り合うだなんて本当に本気なのか、まだ信じられないでいる。
「うーん、そうだな。まずは、俺を知ってもらおうかな。修吾と俺を比べようにも、判断材料がいるからな」
彼は言いながら片手を上げ、タクシーを止める。
「乗って。まずは俺が、普段なにをしているかだろ」
意味が分からないまま、彼とともにタクシーへと乗り込んだ。
「グローバルスノー第三ジムまで」
彼が運転手に行き先を告げるのを聞いて首をかしげる。
「グローバルスノーの体育館?どうしてですか」
「行けばわかるよ」
そう言って魅惑的な笑顔を私に向ける彼に見惚れる。
初めから比べるまでもない。
あなたを好きな気持ちは、今も私の中で日増しに大きくなっているのだから。
強がって拒むことも、もはやすでに限界に近い状態なのだ。『好き』が溢れて、今にも口をついて出てきそうだ。あなたを避けることで、気持ちを抑えようとしていたのに。それすら、見逃してはくれない。
「夢子?」
動きを止めた私を、不思議そうに見つめる目から、さっと顔を背ける。
「あ、すみません。ぼんやりしちゃって」
あなたからの申し出を受け入れたなら、もう離れられなくなる。
あとでもし智也さんが、桃華さんの元に帰りたくなっても、諦めたりなどできなくなることを、私が一番よく分かっているから。