偽りの婚約者に溺愛されています
会社からタクシーで十五分ほどの位置にある、『グローバルスノー第三ジム』。もちろん私も、試合観戦で来たことがある。
スポーツ用品メーカーである『グローバルスノー』が所有するチームは、バスケットボール、サッカー、バレーボール、テニスに水泳、陸上と幅広い。
宣伝と商品実験を兼ね備え、知名度も高いグローバルスノーのチームに入りたいと願う人は多いが、厳しい審査を通過しなくてはならない。ここで活躍する人たちは、一流の選ばれしアスリートたちなのだ。
「はい、着いたよ。降りて」
慣れた足取りで中に入っていく彼に置いていかれないよう、躊躇いながら私もあとを追った。
入口の管理室に彼が軽く手を上げると、そこにいた人が軽く頭を下げる。そこを難なく通過して、そのまま中に入っていく。その奥の体育館の中では、男子バスケットボールの練習が、異様な熱気に包まれながら行われていた。
「うわぁ……」
観客席からそれを見て、思わず感嘆の声が出てしまう。
激しい攻防戦。選手の真剣な眼差し。光る汗。シューズが床にこすれる音と、ボールの衝撃音が館内に響いている。
数年前までは、私もこうしてバスケットボールに打ち込んでいた。辛くも楽しかった日々が思い出される。
「夢子。口が開いてるよ」
隣から智也さんが、笑いを堪えながら言う。
「感動です。グローバルスノーの練習を目の当たりにするなんて。だけど……どうしてここに?」
コートから目を離さないままで尋ねる。