偽りの婚約者に溺愛されています
「隠し事はやめようと思っただけだよ。まあ、隠しているつもりでもなかったんだがな」
彼の言葉に私は隣を見上げた。
「え?」
その瞬間。
「あっ!松雪さん!」
私たちの姿に気づいた選手のひとりが声を上げ、コートの中の人たちが一斉に私たちを見る。
「お久しぶりです!」
また別の人が言う。
「おー、みんな。調子はどうだい」
智也さんがにこやかに言う。
私は驚いて選手たちを見ていた。
そんな私に、彼はコソッと言う。
「実は、バスケチームの責任者なんだ。ずいぶん前から任されてる。簡単に言うと、スポンサーの管理とかかな。ササ印にいてもできることばかりだけどな」
「ええっ。責任者?」
驚く私に、彼はにこっと笑った。
「少しやるか?たまには身体を動かしたいだろ?そのあとのビールは格別だぞ」
そう言いながら彼は上着を脱いで、ネクタイを外した。
「おーい。少し混ぜてくれないか?」
コートに向かって言う彼に、私は両手を思い切り横に振った。
「無理!無理です!プロに混ざるなんて!私はいいです」