偽りの婚約者に溺愛されています
ジムの外まできてから、彼は足を止めた。
ゆっくりと私のほうを向くと、私の顔を黙って見つめる。
そんな彼を見上げた。
「ぶ……っ。くくっ。ふっ。ふははは」
彼は、笑いを堪えながらも、我慢出来なくなったかのように笑い出す。
「なにが……おかしいんでしゅか」
あ、噛んだ。涙を堪えていると、いつも変な話し方になってしまう。
「あはははっ」
私の言葉を聞いて、彼は今度は本気で笑う。
そんな彼を、睨むように見る。
「やっぱりいいな。君は最高だ。悔しがる顔が堪らない」
「意味が……わからないですぅっ」
ふて腐れる私の頭を軽く撫でながら、笑いすぎて出た涙を拭う。彼が言う通り悔しいはずなのに、そんな彼をかっこいいだなんて思うんだから、恋は不思議だ。
心の中に、大きな渦が回っているみたい。女の子に恋をされて調子に乗ってなんかいないで、誰かを好きになりたかった。
ここであなたに、いとも簡単に負けてしまうのならば。
彼の行動のすべてが、私を恋へと導いているような気がする。