偽りの婚約者に溺愛されています
「参ったな。これだけ言っても、まだ足りないのか。じゃあ早速だが、勝った褒美をいただこうかな」
その綺麗な笑顔が私だけに向けられるのならば。
桃華さんの存在がなかったなら。
私も素直に酔いしれることができるのに。
「あげるものなんて、私にはなにもありません」
今持っているのは、あなたを好きな気持ちだけ。
だがそれは、ここで素直に差し出していいものではない。
「褒美をもらうだなんて言ったけど、本当はなにも欲しくはないよ。ただ……こうしていてくれたら、それだけでいいんだ」
そのままギュッと抱きしめられる。
「ずっと……こうやって触れていたい。修吾に君を渡したくないんだ。どうしたらいい?……どうすれば信じてもらえるんだ……?俺のものにはできないのか……?」
私も、あなたを諦めたくはない。
だが、初めて好きになった人には、婚約者がいた。強がって逃げるしか、今の私には思いつかない。
だらりと垂れた私の両手に、次第に力が入ってくる。
いけないと思いつつも、それはいつしか彼の背を這い上がりしがみついていた。
私の肩に乗せられた彼の頭が、そっと動いて私と目が合う。その吐息が首すじにかかり、私は目を閉じた。
そのまま首すじに、彼の優しいキスが落ちてくる。
「夢子。俺は……どうしても……ダメなのか。君に受け入れてはもらえないのか……?なにをしても?」
足が震えてくる。
ダメなわけない。ずっと好きだった。あなただけを見ていた。
あなたの吐息が肌に染みて、身体の力が抜けそうになる。
「ダメ……ですよ……。どうしても」
桃華さんの顔が思い出され、それしか言えない。
だけど彼の背にしがみついた私の手は、さらに強くシャツを握りしめた。
欲求と嘘のアンバランスに、心が切なく悲鳴を上げていた。