偽りの婚約者に溺愛されています
「君に以前話したことを覚えてるかい?」
あれこれ考える俺に、社長が言う。
「なんですか」
社長の顔を見ると、笑みが消えていた。
「夢子と付き合う男には、もれなくこの会社がついてくる。本気じゃないなら、今のうちに別れてほしいと」
社長はなにを言いたいのか。
彼の真剣な目をじっと見つめる。
「いい加減な気持ちでいられては、大勢の社員の運命まで変えてしまいかねないんだよ。どうやら君には、自覚が足りなかったようだ」
「ど、どういう……!」
急な話の流れに驚く。
聞き返そうとすると、社長が話を続けた。
「夢子と君とのふたりの間で、今現在どんな話になっているかは、俺には分からない。夢子がお見合いをすると言い出したときも、本当は違和感を感じていた。君はそれを許したのだろうか、ってね」
社長はすっと立ち上がると、窓に向かって歩いていく。
「だが今朝、会社にかかってきた一本の電話により、すべての疑問の答えが見えた気がした」
俺を振り返らずに窓の外を眺めたまま、社長は話し続けた。