偽りの婚約者に溺愛されています
「君はやっぱり笑っているほうがいい。元気だけが取り柄だろ?」
いつもと同じ、優しく私を見つめる眼差し。
私を女だと実感させてくれる。
生まれて初めて好きになった人。
「元気だけって。ほかにもなにかないんですか。それだけしかないみたいじゃないですか」
「ははっ。褒めてるのにまた文句か。まったく君は……。って、おい。どうした」
涙があふれ始めた私を見て、彼が驚いた声で言った。
「ごめんなさ……。私……」
平気な顔で、なんでもないと言うつもりだった。心配して連れ出してくれただけで、満足したはずだ。
会社で泣いたことなんて、今まで一度もなかったのに。
周囲が想像とイメージで作り上げてきた私という虚像は、本当の私じゃない。
ずっと前から『王子』だなんて呼ばれてきて、自分でもそうでなければならないのだと思い込んできた。
周りの期待に応えたくて、できるだけそうであるようにと演じてきた。
女の子と恋をしようと、本気で思い込むほどに。
それとも本当は、『王子』の内面が期待はずれだと、周囲に思われてしまうのが、怖かったのかも知れない。
なんの価値もない人だと、思われたくはなかったのだ。