偽りの婚約者に溺愛されています
会いたくてたまりません
智也さんがササ印からいなくなって、一ヶ月が経過していた。
空いた課長職は部長がしばらく兼任することになり、智也さんが手がけていた企画は、色んな人に分散されることとなった。
送別会を催す暇もなく、彼は風のように私の前から消えてしまった。
彼の退職を惜しむ声は多く、恋人だと思われている私に、現在の彼の様子を聞いてくる人は多い。彼がいかに、ここで存在を確立し、人気が高かったかが窺える。
彼はもう、私とはなんの関係もなくなってしまった。
会社で顔を見ることもなければ、婚約者として振る舞うこともない。
今も私の首にかかるネックレスは、彼と甘い時間を過ごした証だ。
「明日から店頭に並ぶんですね〜。松雪課長もいたらよかったですね」
隣のデスクの後輩が、サインペンを手にしながら言う。
「うん。松雪さんのアドバイスでここまで来たからね」
無理やり笑顔をつくり、彼女を見る。
「笹岡さん。大丈夫ですか?なんだか泣き出しそうな顔をしてます」
彼女は私を見て心配そうな表情になった。