偽りの婚約者に溺愛されています


「えっ。そんなことないよ。商品化になってこんなに嬉しいのに」

指摘されると、せっかく我慢しているのに、気持ちが張り裂けそうになる。

「そうですかー?でも松雪課長がいなくなってから、笹岡さんはいつも表情が暗いですよ」

「そんなことないってば」

彼女から目を逸らす。

「別れたって本当なんですね。異色カップルで面白かったから、うまくいってほしかったな。社内一のモテ男と、ボーイッシュな笹岡さん。すらっと背が高くて、素敵だったのに。並ぶと美男美女だったし」

「とんでもない。松雪課長に失礼だわ」

憧れていた人と近づけた日々は、あっという間に過ぎていった。
やはり、終わりはあっけなく訪れた。

バスケットボールで負かされたとき、私が彼に適うことなどないのだと思い知り、同時にさらに彼を遠くに感じた。

私の頬を優しく包んだ手は、桃華さんを守るためのものだった。耳元で囁いた甘く掠れた声も、何度も見惚れたその笑顔も。

必死で忘れようとしていると、逆に強く思い出される。
苦しくて、痛い。胸の奥から、彼の記憶をすべて消してしまいたい。

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