偽りの婚約者に溺愛されています
そのとき、デスクの上に置いてある携帯が揺れた。
「あ、電話だ。ごめん」
後輩に言って画面を見ると、父からの着信だった。
「企画課の笹岡です」
社長室のドアをノックする。
「入りなさい」
中から父の声がしたので、ドアを開けて中に入った。
ドアを閉めて部屋の中を見る。
「お父さん。急に呼ばないでよ。身元がバレるでしょ?もしも会議中だったら__」
そこまで話して、黙った。
父のデスクの横に立つ、長身の男性が見えたからだ。
魅惑的な笑顔で私を見ている。
「やあ。夢子さん」
にこやかに片手を上げた彼は一瞬、智也さんだと思ったが違う。よく似ているが、まったくの別人だ。
「修吾さん。どうしてここにいるの?」