偽りの婚約者に溺愛されています

尋ねると、彼は拗ねた声で言う。

「どうしてだなんてひどいな。君に会いたくて来たのに」

「は?仕事中ですよ?なに言ってるの」

呆れて言った私を見て、彼はふっと笑った。

「冗談だよ。笹岡社長に呼ばれたんだ。久々に会ったのに、冷たいんじゃない?」

「修吾さんを呼んだのは俺だよ。彼も忙しいだろうが、ササ印に研修に来る準備もしないとな」


割って入った父の話に驚いた。

「研修?まさか、修吾さんが?」

「そうだよ。兄さんが帰って来たんだから、俺がこちらに来ることになってね。そうですよね、社長」

彼の話に頷く父を見て、いつの間にこんなに打ち解けたのかとさらに驚く。
智也さんは、父の前では緊張して常に引いていた。タイプが真逆なのを、改めて感じる。

「修吾さんはお前と結婚するんだから当然の流れだろう。経営学をしっかり学んでもらわないとな」

「はい。覚悟はできてますよ。兄さん以上に頑張りますから」

にこやかに話すふたりの会話に唖然とする。
智也さんが去って、まだ一ヶ月しか経ってはいないのに。



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