偽りの婚約者に溺愛されています
「結婚なんて。まだ決まったわけでもないのに。話が飛躍しすぎだわ。智也さんがいなくなった途端に、そんなことって」
父の変わり身の早さに、呆れてしまいそうだ。
先日まで智也さんに期待していたのに。
松雪さんなら誰でもいいの?
「お見合いを断らなかった時点で、そうなるだろ?松雪くんには婚約者がいたんだから、当然うちのほうは修吾さんに期待する」
「夢子さん、ひどいじゃない。俺と付き合うって言ったじゃん。これから毎日会えるのに、どうして喜んでくれないの。あ、そうか。長い間会えなかったから、拗ねてるんだね」
「そうなのか?なんだ、そんなことか。ははっ」
笑い合うふたりを見て、ため息が出る。
どうしてそうなるのよ。言っても無駄だと思い黙る。
「実は、付き合うと決めてから、まだ一度もデートしてないんですよ。引き継ぎなんかでタイミングが合わなくて。今日は空いてるよ?仕事が終わってから、ご飯でもどう?」
「おお。そうか。行ってくるといい」
確かに、智也さんのことばかりで、修吾さんとはまともに会うことなどなかった。
今となってはもう、智也さんとのことを考える材料すらない。