偽りの婚約者に溺愛されています
「じゃあ、修吾さん。こちらに来るのは、来週からでいいかね?」
「ええ。グローバルスノーでの業務は、兄が引き継ぎますから」
ドキッとする。
智也さんは今、どうしているのだろう。
結婚準備なんかは、進めているのだろうか。
桃華さんと毎日過ごしているのか。
聞きたいが、まさか今聞くわけにはいかない。
だけど、たとえ聞いたとしても、悲しいだけだろう。
私は俯いた。
どうしよう。どうしたらいいの。
会いたい。
会いたくてたまらない。
『君は女の子なんだから。無茶しないで、それを自覚しろよ』
呆れたように笑いながら、私の頭を撫でる。そんな彼は、今はもういない。
忘れることなど、できはしない。
泣きそうだと後輩に言われたとき、否定しないで思い切り泣けばよかった。そしたらいくらかは、気持ちが晴れたのかもしれない。
どれだけ、目を逸らして誤魔化しても、好きな気持ちが消えるはずなどない。
『自信を持って。君は可愛いよ。離さないから』
あなたにいくら言われても、素直にはなれなかった。
それもそのはずだ。
現に、もうすでに、あなたはいないのだから。こうなることが、まるで初めから決まっていたかのように。