偽りの婚約者に溺愛されています

気づいたときにはもう、涙が頬を伝っていた。
優しくて温かい彼の手が、恋しくて胸が苦しい。

「夢子。……お前」

父の声に、顔を上げる。

「ごめんなさい。……まだ……私は……」

ふたりの困惑した顔が、溢れる涙で見えなくなっていく。

どうしてあんなに強がれたのだろう。
差し出された手を、素直に掴んで離さなければよかった。
二度と会えなくなるなんて、思いもしなかった。

『君は真っ直ぐで、嘘がない』

彼の声が頭の中で響く。
嘘がない、だなんてあり得ない。
いつも気持ちとは裏腹の態度を取ってきた。

婚約指輪も、本当はずっとはめていたかった。
心が震えるほどに、嬉しかったの。

「お父さん、修吾さん……。一生のお願い。……智也さんに、会って話すまで、待ってほしいの。……確かめてみたいの」

やっとの想いで頼んだ。普段の私ならば、強がって絶対に言わないだろう。
意地っ張りで負けず嫌いな私を、彼がここまで変えた。


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