偽りの婚約者に溺愛されています
ふたりはケラケラと笑い出す。
私はそんなふたりを見て、固まっていた。
だが、はっとなった。
「……修吾さん。お見合いを継続しようとしたのは、ふりだったと言いましたよね。じゃあやっぱり、智也さんが言うように、あなたは桃華さんを」
付き合うと決めてから、およそ一ヶ月以上。
連絡もお互いにしないまま、今に至る。
普通に考えて、付き合っているならこれだけ日にちが開くのはありえない期間だ。
「それはどうかな。たとえ、俺がいくら想っていても、結果は相手次第だよね。君たちだってそうだよ?兄さんは君と同じで、意地っ張りなんだ。プライドが高くてさ。俺と付き合うとでも言わないと、本気にならないだろ?」
まさか、私と智也さんは、このふたりの思惑にまんまと嵌っているのだろうか。
ただ彼が、この事態をどう思うかは分からないが。
もしかしたら、父と修吾さんのしたことは、智也さんにとってはありがた迷惑かもしれない。
ならば、確かめたらいい。
本人に、気持ちを聞けばいい。
「あの、私__」
「もし君が、これからどこかへ行きたいならば、もうじき終業だよ?ちなみに、グローバルスノーも同じ時刻が定時だ。もう就業時刻は終わるから、今から出かけるのは自由ですよね、社長?」
「ああ。あと三分で終業だ。どこかに出かけるつもりなら、帰りが遅くなるようなら電話をしなさい」
ふたりの言葉を聞いて、私は頷いた。
その直後に社長室を出る。
そのまま、エレベーターで下の階へと行き、ロッカー室へと向かう。
中にあるバックを掴むと肩にかけ、ロッカー室から出て駆け出した。
何年も本気で走ってなかった私の脚は、思いのほか速く動いた。
まるで自分が風になったような感覚で、必死で走った。
愛しい笑顔を目指して。