偽りの婚約者に溺愛されています
顔を両手で覆って、泣き顔を隠す。そんな私の頭を、優しくそっと撫でてくれる、温かくて大きな手。
男の人の手が、こんなに私を幸せな気持ちにしてくれるなんて知らなかった。
ほかの女の子よりも、ちょっと背が高くて、スポーツがお菓子作りより得意でも。スカートがあまり似合わなくても。そんなことは全然関係なかった。
私だって恋をしたなら、ただの女なのだという事実。
そんな当たり前のことに気づかせてくれた、大切な人。
あなたをどうやって忘れたらいいのだろう。
「うう……」
涙が止まらない。
松雪さんを困らせるつもりなんてないのに。
お見合いをしたなら、あなたを忘れるしかない。報われない恋に突き進むには、私はあまりにも恋に未熟だ。
「しょうがないなぁ」
私の頭上からぽつりと彼の声が聞こえた瞬間、私の身体はふわっと温もりに包まれた。
松雪さんの、逞しく温かい胸に抱きすくめられた私は、驚いて泣くのをやめた。