偽りの婚約者に溺愛されています

「あの。笹岡夢子と申しますが、松雪智也さんと面会したいのですが」

正面受付に座っている女性に言う。
緊張で、手足が震えてくる。

「松雪ですか。社長補佐の松雪智也でよろしいですか?失礼ですが、アポイントはお取りになっていますか」

淡々と事務的に言われ戸惑う。

「いえ……。なにも」

「少々お待ちくださいませ」

どこかへ電話をかけ始めた彼女から目を逸らし、周囲を見渡す。

スポーツ用品の大きな看板のパネルが、すぐそばにある。駅前のビルに大きくぶら下がっているものと同じだ。
グローバルスノー新商品のスポーツシューズが、様々なカラーバリエーションで並べられたものだ。

学生時代の私が使っていたものもグローバルスノーブランドだったが、当時のものと比べるとデザインが近代的でおしゃれなものになっている。

それをまじまじと眺めていると、受付の女性が私を呼んだ。

「笹岡様。そちらのエレベーターから、二十七階にお進みくださいませ」

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