偽りの婚約者に溺愛されています

「にっ……二十七階ですか」

つい挙動不審になってしまう。
先日まで直属の上司だった彼が、そんなに高層階で、有名ブランドメーカーの幹部になっていることを実感する。

ササ印にいても、いずれは幹部になる予定だっただろうが、自分が愛用していたメーカーだからだろうか。ここでの彼の地位に、若干物怖じしてしまう。

言われた通り、エレベーターにそそくさと乗り込み、二十七階のボタンを押した。
指に光る指輪を見て、気合いを入れ直す。

エレベーターの扉が開き、フロアに出る。
どこに向かえばよいのか分からないまま、ふかふかの絨毯が貼りつめられた廊下を歩いた。

扉がいくつかあるが、すべて閉められている。

「どうしよう」

思わず呟いた瞬間。

__ガチャッ。
真横の扉が突然開き、中から男性がひょっこりと顔を出した。

「うぎゃぁっ」

驚いて変な声が出た。

「うわっ」

< 181 / 208 >

この作品をシェア

pagetop