偽りの婚約者に溺愛されています
「にっ……二十七階ですか」
つい挙動不審になってしまう。
先日まで直属の上司だった彼が、そんなに高層階で、有名ブランドメーカーの幹部になっていることを実感する。
ササ印にいても、いずれは幹部になる予定だっただろうが、自分が愛用していたメーカーだからだろうか。ここでの彼の地位に、若干物怖じしてしまう。
言われた通り、エレベーターにそそくさと乗り込み、二十七階のボタンを押した。
指に光る指輪を見て、気合いを入れ直す。
エレベーターの扉が開き、フロアに出る。
どこに向かえばよいのか分からないまま、ふかふかの絨毯が貼りつめられた廊下を歩いた。
扉がいくつかあるが、すべて閉められている。
「どうしよう」
思わず呟いた瞬間。
__ガチャッ。
真横の扉が突然開き、中から男性がひょっこりと顔を出した。
「うぎゃぁっ」
驚いて変な声が出た。
「うわっ」