偽りの婚約者に溺愛されています
相手も驚いたようだった。

「あー、びっくりした。開けたら目の前にいるから。今、迎えに出ようと思って。……君は。笹岡夢子さんだよね?」

その人に言われ、コクコクと頷く。
誰……?

五十代くらいの年齢だろうと思われるその男性は、私を上から下までジロジロと不躾に眺める。
上品なスーツ姿のその男性には気品があり、目力が強い。

ビクビクしながら様子を見ていると、彼の目線が私の目で止まった。

「あの……」

「いやぁ。聞いていた通りの子だね。スラッとしていて、実に爽やかだ!いいね!実にいいっ!はははっ」

びっくりして彼を見つめる。

「ようこそ、ようこそ!君がいつ現れるか待っていたんだよ。よく来たねー」

ハイテンションで満面の笑みを浮かべた彼は、私の手をサッと掴むと、無理やり握手をしてブンブンと振った。

「いやー、智也が君に会えないせいか、拗ねていてね。口も聞いてはくれないんだ。仕事も、実にやりにくい!本当にやりにくいっ!あいつもガキで困るよ!」

「あなた……は……」

ようやくそれだけ言えた。

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