偽りの婚約者に溺愛されています
「そんなに警戒しないで。俺はただ、笹岡のお嬢さんと仲良くなりたいだけなんだ」
あ。そうか。松雪社長は父を知っているんだ。
「父とはどういった間柄なんですか」
私が興味深く思いながら尋ねると、彼の表情がパッと明るいものに戻った。
「お。話してくれる気になったかい?君のお父さんは友達だよ。昔、お互いにまだ若い頃、経営者の懇親会で知り合ったんだ。意気投合してね。朝までしょっちゅう飲み歩いていた。最近はお互いに忙しいけど、また時間があれば誘うつもりだよ」
歩きながらそこまで話すと、松雪社長がフロアの一番奥にあった扉を開いた。
「入って。そこに座って」
扉に「CEO'S OFFICE」と書かれた札がある。
やはりこの男性は、智也さんのお父さんなのだと改めて分かる。
いつか智也さんも、この部屋を拠点に仕事をするのだろうか。
勧められたソファに座ると、松雪社長が私の向かい側にドサッと座った。